中3 3

中学3年
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足ががくがくした。のどの奥がぎゅっと細くなって締め付けられるように痛む。息を吸い込む度にのどが締め付けられる。吐くときも苦しい。普段はどんな風に自分は呼吸をしていたんだろうか。思い出せない。考えられない。

私は咲に聞きたいことを立て続けに聞いた。

「いつからそう思ってたの?」

「どうしてそんなに思い詰める前に少しでもいいから相談してくれなかったの?」

「いつもと同じに見えたのにずっと隠してたの?」

言葉をかけるとちゃんと返してくる。でも自分から進んで話そうとはしない。

「夏ごろか、夏のはじめ」

「悩んで、辛くて、疲れて、ある日気が付いたの

そうだ、死ねばいいんだって」

「死ねば全部終わるんだよ。」

「でも話したら絶対に反対されるから言わなかった。

邪魔されたくなかったの。

だから普通にしてた。気が付かれたらおしまいだもん。邪魔させない。

(死ぬことがこの状態から抜けられる)たった一つの希望だったんだから。」

咲が返してくる言葉はとても重かった。私はそのたった一つの希望を奪ってしまったことに気が付かないままさらに問い詰めた。

「死んじゃったらそのあとに残される人たちのことは考えなかった?」

「考えたよ・・・でもそれでも死ぬことを選んだんだよ」

「今日こそ成功するって思って、やっともう少しのところまできたのに

先生が電話をかけてくるのがもう少しでも遅かったらよかったのに」

「何度も自殺をしようとしてできなかったけど、きちんと死ねる方法がわかったの。だから今日こそ死ねるはずだった。本当に死ねるはずだったのに。あと少しだったのに。本当にあと少しだったのに。」

(ネット検索されないために詳しくは書かない。)

怒っているのは、自殺を止められたからだった。優しい子だ。自分が自殺してしまったら家族がどんなに悲しむか考えなかったはずはない。それでも死を選ぶほどの苦しみはどれほどのものだったのだろうか・・・

咲はこの頃の気持ちを後でこう言っていた。

「死ぬことばかり考えていたときは、朝が来ると『また一日がはじまってしまった。なぜ昨日のうちに死ななかったんだろう』って後悔するの。『まだ生きてた』ってすごく悲しくなるの。毎日そうだった。死ぬのは怖いんだけどそれでも死にたいの。生きている方が死ぬ怖さよりよりももっと辛くて苦しいんだよ。」

 

私は咲がほしがった際にiPodを買い与えていた。自分の子供たちがネットを利用することについて心配はしていなかった。実樹も使っていたし、ネット環境があることは子供たちにとって当たり前になっていた。LINEはもう子供たちの連絡網と言えるくらいに学校に浸透していた。みんな使っているから使うことが普通だと思っていた。そして危ないサイトについて説明したことで「うちの子に限ってネット犯罪にひっかることはないだろう」と安心していた。そんなにバカじゃないはずだし、真面目で一生懸命な子たちだから大丈夫、リテラシーを持ってうまくネットと付き合っていける…とこの時までは信じていた。だいぶ楽観的に考えていた。

 まさかネットを通じて自殺の情報を集めていたとは全く想像もしなかった。咲は自殺のやり方が詳しく書いてあるサイトを探して精読し、今度こそと確実に実行しようと準備していたのだったと後から聞いた。夏休み前から夏休み中にかけて何度も自殺未遂を繰り返していたという。成功しなかったのは本当に運が良かった。本人に少しためらいがあったためもあるのかもしれない。私たち両親はそれを知って何か咲の命を守ってくれた存在を感じ心から感謝した。

私は子供にネット環境を与えるならフィルターをかけるのが必須だと今は思う。ネット犯罪も詐欺も怖いけれど、死についての知識や麻薬についての知識など、知らせたくない知識もフィルターなしでは簡単に子供たちの手に入ってしまう。知識があったら実行までがとても近くなってしまう。フィルター小中高生がいる家庭全部に配ってほしい。