中3 19 校長室

中学3年
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この日は顔合わせと情報共有で終わった。家に戻ると咲は険しい表情で待っていた。私が学校に行って話をしてきたことが相当嫌だったと言う。そして自分のいないところでどんな話をしたのか知りたがった。

ではなぜ自分から先生に自殺未遂のことを話したの?と聞くと、

「話したくなったの。一度話し出したら止まらなくなったの」

と言っていた。

咲が自分の自殺未遂を先生に打ち明けたことで事態が変わってきた。

桜井先生や松本さんからよく私に様子を聞く電話がかかってくるようになった。咲は私に電話がかかってくると怒った。自分の話をされることをとても嫌っていた。そして電話を切ったあとは何を話したのか細かく聞き出そうとした。

中学校に電話をかけたときの扱いも変わった。今までは先生が出られないときは空いている時間に掛けなおすように言われていたが、このときから先生が電話に出られないときはすぐに学年主任の先生に取り次がれて用件を聞かれるようになった。この後何度も学校に行く羽目になったが、先生方の見る目も明らかに変わった。今まではただの保護者として扱われていたはずが、注視するような目線で見られるようになった。目線に含まれるわずかな好奇心が私に刺さった。咲も自分への扱いが明らかに変わったことをよくわかったのではないだろうか。

 

咲は自分の不調を隠しきれなくなってきたのだろうか、この頃からか表情が今までとは違ってきた。顔のつくりは同じなのに表情が違うと、ここまで人は違って見えるのだと知った。ある日仲良くしていたクラスメイトに「咲ちゃんじゃない!」と怖がられた、と言っていた。

笑っているように見せるときは口を閉じたまま唇の両端を上げて目を細くしていた。感情が動かない見せかけの笑顔は、ゴム人形の口を笑顔の形に引っ張っているだけみたいにみえた。瞳は暗かった。怒りがあるときは強い敵意がこもった視線をぶつけてきた。今までそんなことをされたことはなかった。ときどき無力感や悲しさ辛さを混ぜ合わせたような、見ていて胸が締め付けられる表情で何もせずにただ下を向いていた。そういう表情のときは「自分は無価値だ」と思っているように見えた。