中3 48 A病院へ

中学3年
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でも「受かる見込みはあまりないと思うよ」なんてとても本人には言えなかった。今のままでも厳しいのに、この入院でますます第一志望の高校に受かる道は閉ざされてしまうだろう。咲が入院している間に他の受験生たちは着々と実力をつけていく…。そのことを本人がどう思っているかは聞くことはできなかった。受験に失敗した時にはどうなってしまうのだろうか。怖かった。

A病院を受診する日の朝、朝のうちに夫と実樹は咲に「(入院したら)お見舞いに行くね」と声をかけてからそれぞれの職場と学校に出かけていった。

A病院に出発する前に準備した荷物をたくさん車に運び込んだ。運び込む様子を近所の人たちに見られたくなかったのでなるべく音を立てないようにした。「受験期の中学3年生が大荷物を持って家から出ていくところ」は見られたくなかった。何も聞かれたくなかった。詮索もされたくなかった。どちらにしろ入院したら詮索されるんだろうけれど。

そして直接A病院に向かわずに学校に立ち寄った。この日を出席扱いにしてもらうだめだった。桜井先生は養護の先生と一緒に校門の横で待っていた。ホームルーム中の時間を待ち合わせに指定してくれていたため生徒は他に誰もいなかった。配慮だったのだと思う。

咲はおはようございます、と普通の声で挨拶をしてためらいなく校門をくぐって先生たちの方にまっすぐ歩いて行った。私も後から続いた。

桜井先生は校門をくぐったのを確認して

「自分の意思でちゃんと学校の校門をくぐったので今日は出席です。」と言った。「証人もいますし」と養護の先生の方を見て付け加えた。養護の先生も笑顔を向けて「いい天気だね」とか「体調はどうかな?」とかの無難な声掛けをしてくれた。咲は一言二言を挨拶を返した。

少しの沈黙の後先生二人は口々に「咲さん、行ってらっしゃい」と言った。

私たちはお礼を言って車に戻り、今度はそのままA病院に向かった。咲は車の中から先生方に会釈をしていた。機械的にやっている条件反射みたいな会釈だった。

 

A病院は日差しがたくさん入る作りの建物で、明るく清潔そうな雰囲気の病院だった。

総合受付の役割の場所はなく、初診でもすぐに外来の窓口に行く仕組みのようだった。予めもらっておいた紹介状を思春期外来の窓口に出して大野医師の紹介であることを告げると、他の病院と同じように細かい問診票が渡されて記入しながら待つように言われた。この日は初診だけを受け付ける日らしく、待合室には他に数組の親子しかいなかった。