中3 10

中学3年
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翌朝は何事もなかったかのようにやってきた。昨日あれだけ大きな事件が起こったのに、また朝がくることが不思議に思えた。咲が眠っているのを確認すると私は部屋から出た。

見かけだけはいつもと同じ朝を一通りこなし、咲は学校に行った。食事をあまり摂ってないのが心配だった。瞼も腫れぼったかった。昨日は先生二人が自宅に来たからちょっとばつが悪い思いをするかもしれない。いろいろ聞かれるかもしれない。でも多分上手に言い訳をするのだろう。

約束は守る子だった。自分の自殺未遂を悲しみ動揺している両親を見て死ぬことを思いとどまるはずだった。

押し寄せる希死念慮の波の前では死なない約束には大した効力はなかった。抗えるものではなかった。そんな状態に陥ってしまっていたのならすぐに病院に連れていくべきだったがその知識がなかった。希死念慮に飲み込まれないで、死なないでいてくれたことに本当に感謝している。

それでも心配だったので会社を休んでずっと家にいて咲の様子を見たほうがよいのかもしれないとも思った。でも会社に行くことにした。警戒させたくなかった。自分のせいで親が仕事を休んだり辞めたりすると、咲の性格上もっと追い詰められるかもしれない。自分をもっと責めるかもしれない。生活だって苦しくなる。だからわたしは会社を辞めるという決断をずっとできなかった。

会社を辞めなかったことでは咲を追い詰めずにすんだようだし、生活もそのまま維持できた、その代わりに私自身は「私が仕事に行っている間に咲は死んでしまっているのではないか」という恐怖感にずっと苛まれ続けることとなった。

会社についてからも仕事は手につかなかった。でも上司の目線は全く気にしなかった。
会社の空き時間を利用して私はネット検索で「自殺 10代」とか「自殺 中学生」とか「首吊り 中学生」などの、目にするのも辛いワードを打ち込んで検索を続けた。

ネットでの情報はニュースの記事が多かった。うちの子も紙一重の違いで同じニュースになっていたのかもしれなかった。その種類のニュースに載ってしまう可能性はまだあった。私は苦しい気持ちになった。他に多かったのは医療機関を受診した方が良いという内容の記事だった。

当時個人の書いているブログで「子供が精神的に不調になっても絶対に精神科にかかってはいけない」と主張する内容のものがあった。精神科にかかってはいけない理由は「薬漬けにされて健康に戻れなくなる」だった。そのブログにはとても惑わされた。今はもう見つけることはできなくなっている。

私は子供を精神科(思春期外来)に連れていって良かったと思っている。

ネットの情報は玉石混交で偽の情報も多く混じっている。読む側の人間はネットの情報をすぐに信じてはいけないと思う。

精神科を受診させるということには大きな抵抗があった。今までは全く縁がなかったし、周囲に精神科を受診していると知られたらもっといやだった。特に部活の関係の子やその親に知られたらと思うと非常に大きな抵抗があった。平気な顔をしていたかった。嫌がらせに屈したと思われたくなかった。きっといい気味だと思われると思うとどうしても受診させたくなかった。

あの頃は私自身が精神科に通院している人たちに偏見を持っていた。

でも自分の感情に拘っている場合ではなかった。私は中学生の精神科受診についてもネット検索をやってみた。精神科に「思春期外来」というものがあるのをこの時知った。大人と同じ精神科より思春期に特化していた方がいいと思い、私は自宅から通える思春期外来を探してすぐに電話をかけた。しかし精神科は予約することが必須なのに、予約自体は取りにくかった。初診はもう受け付けてないとか、空きがないなどで年内に予約が取れる病院は最初は見つけられなかった。いくつかの病院をあたってみたが2カ月近く後が最短の予約日だった。どこも混んでいた。思春期外来に通院している子供はそんなに多いのかと驚いた。

私は少しでも早く受診できる医療機関を探し続け、ようやく心療内科と思春期外来を標榜する市内の病院に12月4日に予約を取ることができた。受診するまで1カ月半近くあった。この時点ではまだ咲には思春期外来を受診させるつもりでいることは言えなかった。