中3 26 また校長室

中学3年
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その日の夜に桜井先生から電話がかかってきた。思春期外来を受診することを連絡してあったので様子を聞く電話だった。その電話で先生にうつ病と診断されたことを伝えた。先生は驚いた様子だったが話を詳しく聞きたいので明日学校に来てほしいと言われ、前回と同じ時間にまた学校に行くことになった。

咲は寝たまま起きてこなかった。先生からきた電話の内容を聞かれなくてよかった。自分のことを話されるのを嫌がるから。

翌日夕方学校に行くと窓から私の姿が見えたのか、玄関で桜井先生が待っていた。挨拶をして先生の先導で校内に入ると、また校長室に案内された。前回大泣きしてみっともないところを見せてしまったので校長室は嫌だったけれど仕方がなかった。

中に入ると前回と同じ先生方がそろっていた。松本さんも来ていた。そこで前回と全く同じように古い革のソファに腰かけた。席まで同じだった。

桜井先生が司会の役割をした。今回は診察の内容を詳しく聞かれた。昨日の診察ダイジェストを話していると同席した先生方がノートをとっていた。咲の話をカルテに全部入力していた大野医師みたいに、話したことを全部書かれているように思えた。

今までここまで注意深く人に話を聞かれたことがあっただろうか。私が話す内容をみんながノートに書いている。真剣に一言も聞き洩らさないとするかのように私の話をみんなが注目している。教授と学生みたいだ。話し終えると質問タイムだった。今回は前回黙っていた先生方も質問してきた。咲の様子はどうだったか、薬は出たのか、次の診察は何時かなどを聞かれた。注目されていくつも質問を受ける自分がエア教授みたいに思えて一層滑稽だった。

先生方は忙しい中咲のために時間を取ってくれている。情報共有のためノートも真剣に取ってくれている。でも可笑しい。お芝居みたいだ。現実じゃないみたいだ。ノートの内容は明日の朝の職員会議で発表されるんだろうか。先生方全員に咲のことが知られる。要観察の生徒として……。

自分の感情の中で迷子になっていると、よほど普通じゃない表情をしていたのだろうか、隣に腰かけている松本さんが声をかけてきた。

「お母さん、私たちお母さんのこともすごく心配しています。大丈夫ですか?」

松本さんの言葉が私にあたたかく響いた。また喉が詰まって息が苦しくなる。少し間をおいて声が出るようになるのを待ち「ありがとうございます。私は大丈夫です」と答えた。大丈夫でいるしかない。私は大丈夫でいる必要がある。