中3 38 診察後の帰り道

中学3年
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帰り道に咲は私が医師とどんな話をしたかを聞いてきた。自分のいないところで話をされるのをやはり嫌がる。入院の話はまだ本人に言っていなかったので病気の回復の見込みを聞いて「なんとも言えない」という返事だったということにした。

「咲は何を話したの?」

「言いたくない」

自分のことは話したがらない。私がおたおたと騒ぐのが嫌なのだと思う。きっと煩わしいのではないだろうか。

いつも誰かに過剰に注目されていたら嫌なのはわかる気がする。心配だからと自分の状態を根掘り葉掘り聞かれるが嫌なのもわかる気がする。

たぶんこの子がしてほしいのはちょうどいい距離で見守ることなんだろう。誰のアドバイスもお説教も望んでいない。できるなら死なせてほしい、死なせてくれないのならせめて放っておいてほしいという気持ちではないだろうか。

でもとても放っておくことはできなかった。自殺する危険が高い子供を放っておくことができるわけがなかった。本人に嫌がられても寄り添って支えたかった。一緒にいたかった。咲と一緒にいたかった。

数日中の内に医師から受け入れ可否の連絡がくる。それまでには入院することになりそうだと咲に伝えなければいけない。転院先で診察したらすぐに入院することになるだろう。あまり時間がなかった。

明日の土曜日に時間を取って本人に話そう。その前に夫と打ち合わせして二人で話そうと思った。

その日家に帰ってから咲は「これからどうなるんだろう。入院したりするのかな」とぽろっと口にした。「そうなったら面白いな」笑ったつもりなのか顔を少しゆがめて咲は言った。光のない暗い目だった。自分のことを客観的にみていて今の状況を少し面白がっているように話していた。笑っているというよりは嘲笑しているような口元だった。

私は「うーん」というのが精いっぱいだった。この話を続けていけば咲が入院に対してどんな考えを持っているのかがわかったはずだった。もしそこまで嫌がらないような反応だったらそのまま自然に入院の話を出来たのかもしれなかった。でも私自身がついていけなかった。自分の心も全然マネージできなくなっていた。それ以上話を進めたくなくて私は黙った。咲もそれ以上は話さないで「疲れたから寝るね」と言って自分の部屋に戻った。

たぶん夜まで起きてこない。このまま次の日の朝まで寝ているかもしれない。疲れやすくなってしまっていて体力がなくなっていた。常に過眠状態だった。不眠状態よりは眠れた方がいいような気がするが、悪夢ばかり見るので寝ていても辛いようだ。

ますます受験どころではなくなってきた。受験を失敗したら咲の精神状態は想像もつかないくらい悪くなるだろう。