中3 43 EMDR

中学3年
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EMDR眼球運動による脱感作と再処理法は、うつ病について詳しくなったという謎の自負がある私でも知らない言葉だった。調べてみるとトラウマや辛い体験に対して行われる心理療法だった。咲のうつ病がトラウマに起因しているとすれば効果があるかもしれない。一回の治療でも劇的に良くなると書いてあるネット記事も当時いくつか見つけた。県内にEMDR治療ができる開業医(N医院)も見つけた。車で1時間半くらいの距離だった。

「A病院に入院が決まる前にN病院でEMDR治療を受けることができたら、もしかしたら入院しなくてすむようになるかもしれない」

私は一縷の望みをもってN医院に電話してみた。前回の教訓をもとに、電話を取った人にうちの娘の症状と自殺未遂したこと、転院先で入院する見込みであることを洗いざらい話した。簡潔に淡々と話すように心がけた。ここで私が泣いても話は何も進まない。本気で死ぬ気で取り組めと自分に言い聞かせながら話した。

今では本気で死ぬ気で=がむしゃらに突っ走ることではないと思っている。私はもっともっと考えて行動するべきだった。

N医院の電話に出た人は私の話を一通り聞くとすぐに医師に診できるかを聞いてきて、

「医師はEMDRは何か月も準備してトラウマの原因を探って、ここ!と特定して行うものだから一回の診察で施術はできません。それで良ければ診察しますと言っておられます」と返答してきた。

「それでもいいです。診察お願いします。」私は迷わず答えた。それでも何か変わるかもしれない。行動しなければそのままだ。

しばらく私はこのように突っ走って自分では気が付かないまま咲の心に負担をかけていた。

夫にEMDRについて相談したらどちらかと言えば反対だった。

数か月トラウマ特定に時間をかけ、それからやっとトラウマ治療を開始するのなら、入院を避けるつもりでたった一回だけ受診しても意味がないし、咲の体の状態を考えたら負担になるという現実的で客観的な意見だった。しかし夫が反対でも当時の私は一縷の望みでいいから何か方法があるのなら試したかった。もしかしたらEMDRでなくても即効性のある他の治療をしてくれるかもしれないと思った。結局夫は私の様子をみてN医院の診察を受けさせたい気持ちを汲んでOKしてくれた。夫は咲の入院も受け入れていた。嫌がってはいたけれど私のようにあがいていなかった。

N医院には今週の土曜日に咲を連れていくことにした。本当はすぐにでも連れて行きたかったが咲のことで仕事を急に早退したり休んだりばかりしていたので休みにくくなっていた。

N医院への受診を決めたときに私は咲本人に受診したいかどうかなどの本人の希望を聞かなかった。本人の気持ちを蔑ろにしてしまったことは悪かったと今は思っている。