中3 56 冬休み

中学3年
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間もなく冬休みに入った。日中一人になる日は、9時から11時までを学校の図書室で過ごすことになった。図書室には桜井先生も付き添うということだった。おそらく桜井先生には相当な負担をかけていたのだと思うが、正直言って「たった2時間か」と残念だった。でもその2時間-徒歩での往復を考えたらもっと長い-を学校で過ごすことによって気分が変わるはずだ。

ずっと一人でいるとしたら思考がどんどん暗くなって考えが悪い方向にいってしまう。きっと希死念慮も高まってくるだろう。

希死念慮は常に高いわけではなかった。この頃に咲がこういう趣旨のことを言っていた。

『気持ちは振り子のように揺れて、死にたい気持ちと生きたい気持ちが交錯する。そして希死念慮が高まったときでも、そこから実行するまでにはかなりの強い決意が必要だ。本当に死ぬ、今日死ぬといくら決めても本当に実行するのは高いハードルがあるし怖い』

同じころに保健の先生から「平日には自殺しない」と咲が言っていたと聞いた。時間が足りないからだそうだ。咲が調べたところによると、首吊りをした場合、実行してから死に至るまで16分かかるため平日では決意している間に誰かが帰ってきてしまって実行できない、そう言っていたのだそうだ。

だったら実行するのには冬休みはチャンスだ……。

学校で過ごす2時間で気分を変えてもらうこと、それから私が昼休みに家に帰ることでどうにか乗り切ろうと思った。

会社を辞めていればよかったです……

咲が学校を休んだ日や連休で家にいる日は、私は会社に行っていても昼休みにはいつも家に帰ってきて一緒に過ごしていた。家と会社は近かった。昼休み中に休めないことで体力的にはきつかったけれど、ずっと一人にしておくなんて考えられなかった。

私が昼に帰ると咲はたいてい寝ていた。声をかけると目は開けるけれどベッドからは出てこない。体も起こさない。作っておいたお弁当もそのまま手をつけていないことが多かった。学校での様子を聞くと「先生ずっと何か書いてたよ」「あまり話しなかったよ」とか短く返事をしてくる。

私は会話になるように話しかけて反応を見て顔を眺め、目をよく見る。咲の場合は心の調子は目や表情によく出ていたのでどんな様子かよく見ていた。本心はわからないことがたくさんあったがそのとき調子が良いか悪いかはちゃんと判断できた。

会社に戻るときには顔を正面から見て

「死なないでね」と言って必ず「死なないよ」と言わせる。それから会社に戻って仕事をして、定時になると猛スピードで家に帰る。

それを咲が家に一人の日に繰り返した。ばかみたいに見えたかもしれないけれど私も必死だった。