中3 59 新学期

中学3年
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新学期になった。1月の半ばに学校の個別懇談で志望校を最終的に決めることになっていた。思春期外来の予約の日と学校の個別懇談の日は一日違いだった。さらさらと砂時計の砂のように時間が流れて、いやでも現実が動いていく。

受験が近づいてきても3年生の全体の雰囲気はあまり変わっていなかったらしい。咲の中学校はもともと勉強する習慣を持つ子が少なかった。実樹の頃もそうだった。自分の今の学力で合格できる高校を決める生徒が多く、勉強して志望校を「目指す」生徒は少数派だった。咲も少数派の一人だった。もともと居心地の良くない学校だった。

学年全体がのんびりしていたはずなのに咲の自傷はこの頃多くなっていた。抗うつ薬を飲んでいても抑えられていなかった。授業中に自傷したいという衝動が起こり、そのまま実行して喉を絞めてしまう。だから抗不安薬を飲むこともできなかった。わからないようにやっていたので先生も止められなかった。

本人も止めることができない。親の手も及ばないし先生の目も届かない。

医師にありのままを伝えるしかない。それしかできなかった。本人も辛そうにしていて、親子で受診の日をじりじりしながら待った。

思春期外来の受診の日、咲は一人で医師と話したいと言って先に診察室に入った。少し待つと今度は私も呼ばれて咲のいる診察室に入った。この前と違う診察室だった。

二宮医師は私から見た咲の様子を聞いてきたので、「ずっと調子が悪そうだったけれど正月休みに姉と買い物に行った日があって、その日だけは普通の女子みたいに見えた」と私は何とも頭の悪い返事をした。自傷のことは咲が言っているはずだった。

二宮医師は私の返答は聞き流す感じだった。それから「咲から自傷の話を聞いた」と言った。私が把握しているよりずっと喉を絞める回数が多かった。これではまずいと自分でも思って医師に詳細を話したのだろう。一人で先に診察室に入ったのは、自傷について話すときに私が同席していたら騒ぐかもしれず、それが煩わしいと思ったのではないだろうか。

「咲さんにも言ったのですが、次に自傷をしたら入院してもらいます」

医師はそう言った。今すぐに入院ではなかった。自傷はまだ通院でいいのか。死なない約束はそれほど強力なのだろうか。私もだんだん感覚が麻痺してきたが、まだまだ危険な状態なのだということがわかった。

医師は抗うつ薬のレクサプロの副作用が出ているらしいとも言った。咲は手がむずむずすると言っていた。それは副作用ではないと思っていたのだが、副作用の「アカシジア」の種類に入るのだそうだった。体を揺らしたり足踏みが止まらなくなったりするのと、手がむずむずするのとでは全然違うんじゃないかと思うが、原因が一緒でどう症状が出るかの違いだけってことなのだろうか。