中3 62 保護入院が決まった

中学3年
スポンサーリンク

先生が冗談ばかり言っていて笑っちゃった、帰ってから咲はそう言った。何を話していたのかまでは私からは聞かなかった。言わないならそれでいい。「先生の冗談」が何なのかはどうでも良かったがわざとそうしたのだろう。とにかく笑えるようになってきた。抗うつ薬の効き目が出てきているのではないだろうか。でもまた別の抗うつ薬(セルトラリン)に変わったので今の状態は長く続かないはずだった。

自傷をしないようにするのはむずかしかった。

朝登校してから授業が始まる前に抗不安薬を飲むと授業中に喉を絞めるのを止められるのではないかと思って数日間試させてみた。でも授業中に完全に眠ってしまった日があった。先生方は事情を分かっていたので何の注意もしてこなかったが、そういう「奇行」はクラスで目立ってしまうため本人はとても嫌がった。だから数日間でそのトライはやめてしまった。新しい抗うつ薬に変わってからすぐだったのでその効き目もまだ期待できなかった。

結局抗不安薬が上手に使えず、自傷は止められないままで二週間がすぎて次の診察日になってしまった。もう2月だった。出願が間近に迫っていた。

診察の時に咲は一人で話したいと言わなかったので二人一緒に診察室に入った。

二宮医師は「具合はどうですか?」とまず聞いてきた。

咲はやっぱり喉を絞めてしまうという内容を長く話した。手のむずむず感は無くなってきたことを私が横から付け足した。

一通りの話を聞き終わると医師はしばらく黙っていた。腕を組んだまま上を向いたり横を向いたりして姿勢をたびたび変えて長く考え込んでいた。

それから咲を見て「入院しましょう」と言った。

「忘れているかもしれないですが前回『次に自傷したら入院』と言っていましたよね。今日様子を聞きましたがもう危ないところなので入院しましょう」

私も咲もこの日に入院になると思っていなかったので再び仰天した。希死念慮を持ち自殺未遂も何度もしていて現在も自傷をしてることは最初の診察でもう話してあった。本人の叔母(私の妹)の自殺も話してあった。それでも今までは通院だったのになぜ今頃入院の判断なのかわからなかった。

二宮医師は胸ポケットの内線電話らしき通信機器で看護師を呼んで、病棟が空いているかを確認するよう指示を出した。

病棟の空きを確認している間に医師は私たちにこれから保護入院になりますという意味のことを言った。

(このあたりから記憶が曖昧で間違っているところがあるかもしれません)

保護入院には未成年者は両親の同意が必要ということで、まず私に同意するかと医師は聞いてきた。否も応もなかった。医師が必要だと言うのなら入院させるしかない。命の危険があると判断されたのだから。

私の同意を聞くと「お父さんと連絡を取ることはできますか?」と続けて聞かれた。タイミング良く連絡が取れる時間だったので私は自分のスマホからその場で夫に電話を掛けた。夫は待っていたかのようにすぐに電話に出た。

簡単に事情を話してすぐに私のスマホを通話状態のままで医師に渡した。

医師は夫に電話越しにさっき私に言ったのと同じ言葉を繰り返して、同意するかを聞いた。夫がすぐに「はい」と言っているのが私にも聞こえた。

これで入院は決まった。

咲はこの場を寸劇の進行具合を観察するかのように注目している。でも主役は自分なのに観客みたいに外から見つめている。

現実味がないのだろうか。そういう私も頭が痺れたみたいに働かなかった。私も観客モードになっていたのかもしれなかった。