中3 71 しおれた花

中学3年
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本当はいつ入院してもおかしくなかったんだ。大野医師はそう言っていた。

入院前提で転院したけれど、転院先の二宮医師はなぜか今までは入院させないで通院で様子を見ようと判断していた。ちょうどボーダーライン上の状態だったのだろうか。入院してもしなくてもどっちでもおかしくなかったのかもしれない。

夫は相当ガックリしているようだった。でもそれを口に出しては言わなかった。私も見通しや状況の説明はしたけれど、自分の気持ちについては話さなかった。私たち両親ともに感情が大きくなりすぎてしまっていた。これを言葉にして二人で話し合いなんてしたらさらに感情が大きくなって手に負えない。号泣してしまうかもしれない。今日はそのまま黙っていよう。私はそう思った。落ち着いたら話そう。

きっとあの子は病院に慣れるまでなるべく人目につかないように部屋にこもっているだろう。だからナースステーションのそばにある公衆電話のあるところまでは出歩かない。今日は電話してこないはずだ。

直接連絡は取れなくても「あの子は安全だ。」そう思うと心が休まった。

あの子が自殺未遂してから私はずっと同じ部屋で寝起きしてなるべく一緒に過ごしていた。

内心嫌がっているのはわかっていたけれど、自殺する危険がある子を一人にしておけなかった。家にいても常にあの子がどこにいるのかを気にしていた。休日は家からなるべく出ないようにしていた。食料品の買い足しも短時間ですませるようにしていたし、何度も買い物に行かないようにするために一度に大量に食料品を買い込んでいた。

私が寝ている間に死んでしまうんじゃないか。仕事に行っている間に死んでしまうんじゃないか。ちょっと姿が見えないと死ぬためにどこかに行ってしまったんじゃないか。

常にそんな不安があった。ずっとぐっすり眠ることや深く息を吸うことができなかった。一人の時間もなかった。(それは咲もだった)

でも咲は安全だと思うと気落ちが休まった。

今日は休もう。私は思った。高校受験や進路のことは考えない。明日以降また考えることにした。

次の日の朝起きて、昨日良く眠れたことに気が付いた。咲の部屋の固い床に敷いた布団じゃなくて自分のベッドで寝たのは久しぶりだった。

驚いたことに居間に飾ってあった花が一晩でしおれていた。

私は咲が病気になってからずっと花を居間に飾っていた。花を見て心を休めてほしかったからだった。そして値段が手ごろだったのでいつも同じ店で同じ花を選んでいた。ストックという花だった。だからその花が長持ちすることは知っていた。それに今まで一晩でしおれたことはなかった。昨日まで普通だった花が一晩でしおれて全部下を向いてぐったりしている。見た感じではもう復活する見込みがなさそうだった。

咲が入院してしまったのでその花の仕事も終わってしまったのか。

(実は私たち両親の負のパワーが花をダメにしたのだと思っている。)