中3 72 部活のグチ

中学3年
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我が子が精神病院に入院してしまっても時間は関係なく流れていった。入院してから数日で予定通り思春期病棟のベッドに空きが出た。思春期病棟の咲の担当になった相葉さんという看護師さんから電話があって、病棟を移ったことを知った。そこでも個室だった。「咲さんの場合は個室がいいですよね」相葉さんは自分の感想をそう言っていた。それだけ症状が重いという意味らしかった。

咲からは入院した翌日から週末まで毎日電話が来た。もっと長く部屋にこもっていることを予想していたし、私にはもううんざりしてるんじゃないかと心配していたので意外だった。良かった、「会わなくてせいせいする」とまでは思われていないようだ。

一回にたった10分しか話せないので、5分間は私と話し、残りの5分間は夫と話した。

電話をする前にはナースステーションにそう申告して、タイマー(普通のキッチンタイマー)を渡されるのだと言っていた。電話をかけて相手につながってからタイマーのスイッチを押してスタートさせて、制限時間が来て鳴ったら電話をやめる決まりになってるそうだった。

看護師さんが制限時間の間ずっと張り付いて監視しているのでないのなら、ごまかすことも簡単にできるはずだった。きっと制限時間を守っていない子もいるはずだ。電話時間の制限がある人にはタイマーを形だけ渡しておしまいなんじゃないかと私は思った。

でもそういう規則は破らない子だった。

電話をかけてくる時間はいつも夜の7時ごろだった。その時間は実樹はいつもまだ帰っていなかった。だからずっと話せないままだったが、実樹の様子については咲は何も聞いてこなかった。

私と話すときには面会の時に持ってきてほしいものを聞いたり病院での様子を聞いたりするだけで終わっていた。夫はわざと明るく雑談をしていた。咲の電話越しの声は前も感じた、ロックでもかかっているみたいな感情の読み取れない声だった。親子なのに他人行儀で淡々とした調子だった。

多分会話はナースステーションにも聞こえる。だからよそゆきの型にはまった声で話しているんだろう。個室でよかった。素に戻れる時間が必要だろうから。

入院してから初めて週末になって、夫と一緒に咲の面会に行った。実樹は部活の練習試合があるので一緒には来なかった。

 

ここから横道にそれます

咲の病気が発覚してからずっと実樹の部活関係の行事にもサポートにも出られなかった。実樹の同級生の保護者達には事情は話していたけれど、親がサポートしないと子供だけで部活の行事をこなしていくのは大変だったはずだったし、本人の肩身がだいぶ狭くなる。他の保護者の世話になるしかないからだ。苦労したと思う。

でも親のサポート(例えば練習試合の送迎の段取りや実際の送迎、懇親会やサマーキャンプの幹事、子供への差し入れなどたくさん)がないと成り立たない部活は、果たして部活としての体をなしていると言えるのだろうか?本当に学校でやっている活動だと言えるのだろうか?

保護者は手や口を出しすぎ、出しゃばりすぎだし先生も子供も保護者をあてにしすぎだと思う

保護者達は子供のチームを強くするためには顧問の先生に気持ちよく仕事をしてもらうことが必要だと思っている。だから顧問の先生の機嫌をとって練習試合をたくさん組んでもらうように、練習時間を少しでも長くしてもらうようにお願いする。「お客様は神様です」が信念の営業マンに似ていた。

部活の中での人間関係もいざこざも性格もプレイのくせもすべて把握し、メンバーの家族構成や両親がどこで働いているか、きょうだいがどこの学校に通っているのかまでも全員分知っている。対戦相手の学校のチームの内情や顧問の先生のプロフィール、前任の学校もスポ少で培ったネットワークを駆使して把握する。

諜報活動(?)や奉仕活動に惜しみなく自分自身の時間を差し出し、それを先生も子供たちも当たり前に思って受け取とる。

子供に自分を投影して、自分の果たせなかった目標を子供に乗り移って叶えようとしているのか。

それとも純粋に子供たちのためなのだろうか。

スポ少の頃から保護者達はそうやって子供たちのスポーツ活動を支えてきていたため、子供たちにとってはそれが当たり前の日常になってしまっている。感謝すらしていないのではないだろうか。

 

そのような価値観があるのは理解する。

でもそんな保護者が多くいる部活に入ってしまったら価値観の違う親子はとても苦労する。私も咲もそういう部活にいた。そしてその部活でのさまざまな出来事が咲を追い詰めた。クソとしか思えない。

実樹の部活は咲の部活ほど狂っていなかったが、熱意がありすぎる保護者も多くいた。途中で部活のサポートができなくなり、実樹には悪いことをしてしまったと思っている。

でも部活の仕組み自体に保護者のサポートが組み込まれているのは私からみれば異様で、感覚的には全然ついて行けなかった。