中3 82 入院中の外出2

中学3年
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模試の会場に着くと、筆記用具が入った手提げとレジ袋入りのサンドイッチとオレンジジュースのお昼ご飯を持って咲は会場に入っていった。お箸を使わないで食べられるものを選んだ理由は何となくわかる。時間をかけて一人でお昼ご飯を食べるのは嫌なのだと思う。

入院している病院から模試会場への送迎をしてやって、自分が食べたいお昼ご飯を選ばせた。もう他には私がしてやれることはなかった。背中を見送って私は会場を後にした。

模試が終わる時間に私は今度は夫と一緒に会場に迎えに行った。入口からこちらに歩いてくるうちの子の顔を凝視してみたが、その表情に落胆も安堵も出ていないようだった。もうあきらめて無我の境地に入ったのかもしれないと、ちょっとヤケクソ気味に思った。

咲は「おわったー」とちょっと声を弾ませて車に乗り込んできた。夫がさりげなく「どうだった?」と模試の出来を聞くと「うーん、だめだったと思う」と普通の調子で答えてきた。夫も私も「頑張ったよね」とねぎらう言葉しか言わなかったが、内心は二人とも模試の結果なんてどうでもよかった。良いわけがない。そんなことよりも、今目の前には週に1回15分の面会しかできていなかった我が子がいる。話すことができるし、触れ合うこともできる。我が子と過ごせるこの短い時間を大事にしたかった。

すぐに話題を変えて「海鮮丼が食べたいんだよね?」と私は会場の近くの食事ができる店を候補にいくつか挙げた。すると咲は自分の同級生と出会ってしまうかもしれないという理由でそれらの店を却下した。

長い移動は体に負担がかかるだろうから、模試の会場の近くの店の方がいいと私は単純に考えていた。

でも模試会場の近くに同級生たちがよく行っている大きな映画館がある。だから同級生が映画を観に行ったついでにこの近辺に外食に来るかもしれない。受験直前であっても映画を観に来る子がいるかもしれない。

咲はそう自分の意見を主張した。

入院中にもかかわらず親子で外食しているところを見られたら困る。入院はうそで仮病だったと思われるんじゃないかと懸念する気持ちはよくわかった。

同級生に会ってしまう可能性なんて全然考えていなかった。私はいつも考えが浅くて単純だ。少し考えればわかったかもしれないのに。

そこで私たちは病院の方向に車を走らせて、模試会場から遠い店を探した。たどり着いたところは回転寿司だった。海鮮丼とは違うが、お寿司でもいい、お寿司も食べたいなと咲が言ったのでちょうど良かった。

入院前には全然食欲がなくて倒れるんじゃないかと心配だったことを私は思い出した。「食べたい」という言葉を聞けることが奇跡みたいに嬉しかった。