中3 86 受験の直前

中学3年
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翌週に相葉さんから電話がかかってきた。

受験の前日は自宅に前泊して当日直接受験高校に行くようにしたらどうか?という提案だった。

前泊できるなんて思ってもいなかったし、思いつかなかったので相葉さんにすごく感謝した。

(「相葉さんは患者さん自身が一番ストレスなく過ごせるように考えていろいろな提案を医師にしてくれる人だよ。橋渡ししてくれるんだよ」と咲も後から言っていた。)

思いやりがこもった声で相葉さんは「許可を出せるか申請してみますが、まずお母さんに意見を聞こうと思いまして」と言った。

「お願いします、ありがとうございます!」と興奮気味に私は返事した。電話を切った後もしばらくうれしかった。

咲がうちに帰ってくる!

最初は嬉しいだけだったけど、受験のときに直接自宅から高校に行くためと思い出してしまって戸惑いも出てきた。受験前日にうつ病の子供とどう接したらストレスを感じさせずにすむんだろう。

接し方は棚上げして段取りを考えることにして

外泊許可が出たら

前日に病院に迎えに行って自宅で前泊する(自宅で前泊というのも変な表現ですが)

受験一日目、自宅から直接高校に行く 私は仕事は休んで、その日の日中は高校に設置された保護者待合室で受験が終わるのを待ち、咲と一緒に自宅に帰る

受験二日目も途中までは一日目と同じ行動で、受験が終わったら病院に咲を送って私は午後から仕事に行く

受験二日目が特に忙しそうだった。受験が終わった後は結果もボロボロだろうし体力もボロボロだろうし、ひどく気落ちしていることだろう。受験の終了はお昼近くだけれど、お昼ご飯は病院で食べてもらおう。外で食べたら気分が変わるかな?という気持ちよりも早く病院に戻して専門の人にケアできるのならしてほしいと思った。

私が何を言っても本人の心に入っていかない。それより専門の人たちにゆだねた方が本人のためだ。

私にできることは車で送迎するくらいだ……そう思った。

数時間後に相葉さんがまた電話をかけてきて、受験の外泊許可が出たと教えてくれた。その電話で相談して、前日の夜の8時ごろに迎えに行くことにした。迎えに行くのが遅くなる可能性も考えて、夕食は食べててほしいと本人に伝えてもらった。

いよいよ受験だった。

内履きや受験票、えんぴつと消しごむを本人がいないため私が用意した。

先生が受験票を届けてくれたとき、新しい鉛筆を一本くれた。クラスの全員に配っている鉛筆だと先生は言っていた。鉛筆の両端の六角形の角が大きく削ってある。「五角だから合格です」先生は少しだけ頬を緩めてそう言っていた。クラスの前でもそう言って全員に渡したのだろう。生徒たちはどんな反応だったんだろう。今の咲がその場にいたとしてもにこりともしなさそうな冗談だった。病気になる前の咲ならきっと笑っただろう。

私が代わりに笑っておいた。

先生の気配りだ。ありがたく受け取った。その鉛筆も受験セットに入れておいた。