「よろしくお願いします」
膝を突き合わせる様に椅子に腰かけて打ち合わせ?が始まった。
大野医師が話し始めた。
咲は希死念慮が強くまだ薬の効き目が出ないこともあり今のままでは自殺する危険がある。しかしこの病院はもともと軽い症状の患者の診察をしており、咲のような重症な患者を受け入れる体制がない。そのため今後は他の病院に転院してもらう。転院した先の医師が入院するかどうかの判断をする。
「私の診断では」と大野医師は言った。「入院させるべきだと思います。」
精神病院への入院は3種類あり、この場合は医療保護入院という種類だった。医療保護入院は本人の同意がなくても保護者の同意があれば入院させることができる(未成年の場合は両親二人の同意)咲はこの医療保護入院相当の症状があるということだった。
大きな衝撃だった。そこまで悪いのか。薬を飲み続けて効き目が出てくれば元の咲に戻っていくのではないかと私はまだ思っていたところがあり、入院させることなどは思いつきもしなかった。
まだ私は元の咲に戻れたら今までの生活に戻れると信じていた。現状を正しく認識できていなかったのだ。
自分の子供が精神病院に入院するなんて考えただけでぞっとした。入院した後の咲は元の咲と違う性格になってしまうのではないだろうか。無知と偏見による間違った考え方です
それに入院なんてしていたら高校受験ができない。高校も出ないでこの日本で生活するなんて考えられない。もしかしたら中卒のまま一年間過ごして翌年一つ年下の子たちと受験をするのだろうか。「普通」という保護色を常に纏おうとする咲にはそんな事態は耐えられない。症状はますます悪化するだろう。入院したとしたらいつ退院できるんだろう。内申書の出席日数はどうなるんだろう。いろいろなことが頭の中で展開してどうしていいのかわからなかった。
大野医師は本人に黙って計画を進める方がいいと言った。
「これから受け入れ先を探します、決まったらそこの医師が診察した上で診断が出ますが、おそらく入院になるでしょう」
「本人は入院は嫌がると思います。嫌がって不測の事態にならないために転院先には入院をさせることを隠して連れていき、そのまま入院させるといいでしょう。」
と大野医師は付け加えた。私は「夫とよく相談します」と言ってその場では入院に同意はしなかった。