中3 88 合格発表

中学3年
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二日目の受験が終わって、校舎からぞろぞろと受験生たちが出てきた。しばらく待っていると咲も出てきた。

私を見つけてこちらに歩いてくると、真っ先に

「あんまりできなかった」と笑いながら言った。

また笑い顔を見ることができた……

本人もこれで諦めがついたのかもしれない。入院しながらでも受験することはできた。それ以上はもう高望みなのかもしれない。

「ハンデがあるのによくやったよ。偉いよ」と私は声をかけた。その後どこにも寄り道しないで病院まで送った。しばらくまた病院暮らしだ。だんだんと状況に慣れてきて、我が子が閉鎖病棟の2枚目のドアの内側に消えていくのを私は淡々と見送っった。

つぎは合格発表に外泊か外出することになる。本人にはどちらがいいんだろうか。外泊か、外出かをすぐには決められなかった。そこで本人の希望や病棟に戻ってからの気持ちを聞きながら相葉さんと相談することにした。

病棟の鍵を開けてくれた看護師さんに後で相葉さんに相談したいと言伝して、私は病院を後にした。午後から仕事に行かなければならなかった。

咲は受験してから合格発表までの一週間も、いつもと変わらず一日10分の電話を必ずかけてきていた。私はテレフォンカードを何回も買っていた。

その10分の電話でも受験については話をしたがらなかった。私たち両親もその話題を避けていて、いつもより息をつめて過ごすつらい一週間だった。実樹のときと全然違う。実樹の時は本人があっけらかんとしていたので家族もあまり心配してなかった。

本人は合格発表の前日に自宅に帰りたいという希望だった。希望するなら、と私は相葉さんにそのことを相談した。相葉さんも咲の様子を見ていた上で外泊に賛成だったので医師に外泊を申請してもらって、許可もちゃんと出た。

そして前日は自宅に泊まるけれど、合格発表後はそのまま病院に戻ることになった。不合格だったとしても病院の中にいられるのなら自殺の危険はない。決行しようとしても道具もないし場所もない。個室の部屋はモニターされていると聞いている。監視がたとえザルだったとしてもモニターされていると本人が知っているだけで抑止力になる。そう思った。

一週間はすぐ過ぎた。

自宅に前泊した咲と私は合格発表の当日早めに家を出た。時間の調整に、受験した高校の近くの店でお昼ご飯を一緒に食べた。味はよくわからなかった。その後合格発表の時間に合わせて徒歩で高校に向かった。合格発表を見に行くと思われる他の学校の生徒たちも大勢同じ道を歩いていた。

途中、咲が苛立っているのがわかった。私に苛立っている。私服で来ていたのだが受験高校に向かう他の生徒たちは中学校の制服を着ている。

自分も制服を着てくるべきだったのに母親の私がそれに気が付かなかった。そこが原因だった。

コートを着ているのでほとんど私服だとわからない。でもそれは問題じゃない。制服を着てくるべきだった。それを出来ていないことがダメなんだ。

もともとそんな性格の子じゃない。物事は何でも公平な目で見ているし、個人の事情や性格、その場の状況もよく把握した上で総合的に何でも判断する。そういう子がここまで苛立つとは、やはり病気のせいだ。と、私は制服のことに気が付かなかった自分のことを棚に上げて思った。

高校について遠巻きに掲示板を眺めた。

間もなく合格発表の掲示板の白い覆いが外されて、わーっとかキャーっとかのさまざまな感嘆の声が上がった。その場にいる人たちが出す熱量と声とで掲示板の近くは興奮に包まれた。

私は合格するはずはないとわかっていながらも一縷の希望が捨てられていなかった。

第一志望の学校に受かったらどんなに本人が喜ぶだろう。そこでは誰も中学校の同級生がいない。全部新しくしてスタートできる。姉の実樹と同じ高校で、姉に引け目を感じることもない。偏差値は他より高いので病気で下がっている自己肯定感も上がるかもしれない。嵐山に合格できたら……どうしてもそう思ってしまっていた。でも合格したとしても落ちこぼれることになるだろうけれど。

掲示板に近づくにつれて自分の鼓動が大きくなっていく気がした。それが周囲の喧騒と重なって頭の中にわんわんと鳴り響いた。

緊張して足がこわばってガクガクした動きで、私は咲と掲示板を見る人の群れの後ろからだんだん前に出て行った。発表を見た人たちが場所を空けるたびに少しずつだが前に進む。近くで誰かに電話をかけている様子の声も聞こえる。騒がしい。緊張する。胸が締め付けられる。掲示板を見たくない。掲示板を見たら一縷の望みが消えてしまう。そうしたら結果をわかってしまう前には戻れない。

鼓動がますます大きくなってきて体中に鳴り響いた。体がこわばってきて体温が下がったように思えた。

すぐ前にいる子たちがワーッと急に騒ぎ出した。番号が見えるところまで来進んできたのだった。次に私たちもすぐに掲示板に書かれた受験番号が読める位置まで来た。私は覚悟を決めて目を凝らして子供の受験番号を探した。

「あった!!」

番号を最初に見つけたのは私だった。確かに咲の受験番号が掲示板にあった。咲もすぐ自分の番号を見つけて「ほんとだ!!」と言った。

信じられなかった。どうなっているんだろう。でも確かに番号がある。夢?妄想?

でもそれは現実だった。どういう理由かわからなかったけれどうちの子は本当に合格していた。

夢オチではなかった。

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