中3 36 医師と話す

中学3年
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患者が最初からすべての情報をを説明しようとすると恐ろしく時間がかかってしまう。だから患者が症状を説明したあとは、追加で必要な情報を医師が聞いてくるものかと思っていた。聞かれないことは必要な情報ではないのかと思っていた。でもここでは身内が自殺していたら聞かれる前に気を利かせて自分から話さなくてはいけないのか。黙っていたいのに傷をえぐってくるな。皮肉混じりに思った。

「もっと早く……」には謝るべきなのだろうか。でも私は黙殺した。せめてもの抵抗だった。

妹の自殺で医師が反応するということは自殺に遺伝が関係するのだろうか。私もその遺伝子を持っているのだろうか。それが咲に作用してしまったのだろうか。実樹は大丈夫なんだろうか。私は結婚しないほうが良かったのだろうか。

「転院先が見つかるまでは最善を尽くします」沈黙の後で医師はそう言った。もしかしたら私の気持ちに対してのフォローなのかもしれなかった。

「ありがとうございます」面倒なことをしてスミマセンと心の中で毒づいた。

それから私はもう何回叱られても同じことだからと投げやりになって「転院して入院する可能性がとても高いのなら本人を騙さないで最初からそう伝えたい」と申し出た。意外なことに医師は怒り出さないで「大丈夫ですか?説得できますか?」と心配そうに私の顔を見た。

「大丈夫です。あの子は話せばわかる子です。物事を合理的に判断できます。(でもあの子が通常の状態ならですけどね……)私と夫で説得します。本人に何も知らされずにいきなり入院させられるのではかわいそうです。もしそうなってしまった場合は納得いかなくて反発するだろうし、症状も悪化すると思います。」私も必死だった。入院しなければならないのだとしたら、せめて本人が納得して入院してほしかった。

医師は少し迷っていたようだったが最終的には入院のことを本人に事前に知らせて良いと言ってくれた。

転院先は返事が保留になっているところがあるのでもう一度確認してみます。その病院に転院が決まったらまた電話します。おそらく数日中の内に受け入れてもらえるかどうかが決まるでしょう。詳細はその時に伝えます。もし断られたら大人の精神科の入院も検討しましょう。「それから」医師は付け加えた。「入院するかどうかは最終的には転院先の主治医の判断で決まります」

大野医師は入院させなかったら自殺される可能性があるという診断だけれど、転院先ではそう診断されないかもしれない。診断の基準が医師によって違うんだろうか。個人の裁量なのか。わからなかった。