中3 9

中学3年
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咲の姉の実樹が高校から帰ってくると私たちは一緒に食事をとった。少し気分が和らいだ。実樹と少し話し、最低限の家事を終わらせた後で、咲の部屋に私の寝るための布団を敷いていると咲が部屋に入ってきた。表情はうつむき加減で明るくなかった。「今日は疲れたから寝るね」と咲は目を合わせないで言ってすぐベッドにもぐりこんだ。明日の学校の時間割合わせもしていないままだった。

「寝るね」は「もう話しかけないでほしい」という意味なんだろうと私は思った。そこで部屋の明かりを消した。それから床に敷いた布団に入った。暗くて部屋の中が見渡せなくなっていたが、咲の気配や呼吸だけでも感じていたかった。咲がちゃんと生きているとずっと確認していたかった。そのまま私はいつの間にか眠った。浅い眠りだった。

夜中に目を覚ましたとき、咲は起きていて机に向かっていた。部屋の明かりは消したままデスクライトだけつけて何かを書いているようだった。

「咲」

声をかけると咲はゆっくりとこちらを向いた。見たことのない表情だった。

殺意を隠しながら相手と対峙するときにはこんな表情になるのではないだろうか。何か大きな感情を抱きながらいつも通りに見せかけているような風にも見えた。

「何してるの?」

答えない。

「勉強?」重ねて聞くと咲はゆっくりうなずいた。「頑張ってるね」私は話しかけるのをやめてまた布団に横になった。勉強ではないと分かっていた。

今朝自殺未遂をした子が、その日の夜中に勉強をするのは不自然だった。

書いているのは遺書だろうか。日記だろうか。書くのを止めてはいけないんだろうか…。

咲はそのあともしばらく何かを書いていた。

明日は通常通りに接することにしよう。それからすぐに中学生の自殺についてネット検索してみよう。自殺したい中学生にどんな対応をしたらいいのか知識が欲しかった。情報が欲しかった。でも誰かに聞こうとはしなかった。相談しようとも思わなかった。事実を受け止めているだけで精一杯で言葉にして誰かに伝えるだけで自分が崩壊しそうだった。誰かに話したとしたらその誰かにどんな反応をされても辛いだろうと思った。そういう意味でもやはり担任の先生に相談はできなかった。自分の感情を抑え込むだけでへとへとだった。