娘が入院することだけでも嫌なのにさらに騙すようにして入院させるなんて考えられなかった。本人だって急に今日から入院だと言われて素直に受け入れることはないだろうし、反発するのにもエネルギーを使って疲れてしまう。それに医師や両親への怒りや不信感で余計に辛い気持ちになってしまうのではないだろうか。しかも入院したことで本人の意思に関係なく高校受験もできなくなっってしまったとしたら、計り知れないダメージを受けてしまう。
事前に入院を通告することで気持ちが整い、仕方なく入院するのだとしても少しは前向きな気持ちになれるのではないだろうか。準備だってある。自分がこれからどうなるか知らされないまま診察を受けに行ってそのまま帰れないなんてかわいそうだ。
「そんなことはできない」私は思った。
医師は明日私に直接電話をかけて入院の同意について確認すると言った。
保健師さんたちと学年主任の先生も何か発言していたがほとんど頭に入らなかった。入院までの市や学校の対応について医師の意見を聞いて現状とすり合わせていたのかもしれない。
「もしかしたら入院の話を私が握りつぶさないように関係者たちを証人に呼んだのだろうか。」そんな考えが頭に浮かんだ。入院と言われたら反射的に拒否する親は私の他にもいるだろう。そうなのだとしたら今の私と同じような気持ちなのだろう。誰もが普通でいたいのだな……普通でいられない自分たちを悲しく思った。
打ち合わせは一時間未満で終わり、今回のメンバーは診察室で解散した。
「この人たちは皆咲のために動いてくれた」そう思うとありがたかった。家族だけではもうとても対処できない。
先生方は帰っていったが保健師さんたち二人は大野医師と残ってまだ打ち合わせがあるというのでその場に残った。私も診察室を出た。
衝撃はまだ残っていた。こんな時は会社にいって仕事に集中した方がまだ気分がマシだった。こんな時には会社を辞めないでいたことが正しいように思えた。ずっと家にいて咲の見張りだけをしていたらお互い気分転換ができずにへとへとに疲れ切ってしまうだろう。
その日の夜咲が寝てしまい、実樹が自室に戻ってから夫と話し合った。入院の件で夫も相当衝撃を受けていた。咲を騙すようにして入院前提で入院施設のある病院に転院する話は夫もやはり反対だった。私たちは二人とも「入院したら高校受験ができなくなるから反対」という結論に落ち着いた。
今にして思えば自殺の危険が高いのに入院させないなんて信じられない。