窓がない部屋のくたびれ気味のソファーに腰かけてまたぼーっとしていると、少しして別の看護師(?)が部屋に入ってきた。
※病棟の中で働いている方々は全員看護師さんだと最初は思っていましたが作業療法士さんや(公認?臨床?認定?)心理士さんなどの職業の人がいたらしいです。他の専門職の方もいたのかもしれません。咲が後日そう言っていました。
その人は「咲さんの担当です」と自己紹介をして入院病棟の規則について説明を始めた。
普通の病院でもありそうな規則は省いて他の病院と違うところを書くと
・電話は主治医の許可があればできる 時間制限がある
(本人が電話をかける場合はテレフォンカードか小銭を使ってナースステーションの前の公衆電話からかける
こちらから電話した場合は担当の看護師とは話せるが本人には取り次げない)
・お金はナースステーションで預かる
・食べ物、飲み物の差し入れ禁止 サプリメントは持ち込めない
・面会は主治医の許可が必要、時間制限あり、事前に主治医の許可を取っていない場合は面会ができない(病棟の中にも入れない)
・刃物は病棟に持ち込めない 刃がついている爪切りはナースステーションで預かって必要な時に許可を取って使う。顔の産毛は剃れない。剃刀は持ち込めない。
・紐のついているものは衣類も含めて持ち込めない ジャージの紐やパーカーの紐は全部外される。
・荷物は全てチェックされる 主治医の許可が出ないものはナースステーションで預かる
・ゲーム類や通信機器、スマホは一切持ち込めない。
自殺を防ぐために刃物や紐類を禁止するのはわかるが、他にも制限がたくさんあるのに驚いた。
説明をざっと終えると「入院の着替えや小物類はこれから用意しますか?」と看護師は聞いてきた。
ここらでようやく私の頭が働きだした。入院すると思っていなかったので今日は学校に行く用意だけしてきた。一度家に戻って必要な物を持ってこなくてはいけない。咲は制服姿で学校の教科書とノートしか持ってない。今日すぐに必要だ。
「一度家に戻って入院のための用意をしてきます
3時間くらい後にまた来ます」
そういうと看護師は
「その頃『入院診療計画書』ができていると思いますから、来たら声をかけてください。」と言った。
私はふらふらおぼつかない足取りで病棟を出て、広いホールの人がいない場所に行った。
そして担任の桜井先生に入院したことを伝えるために電話を掛けた。
先生は授業中だったので学年主任の先生が出た。入院のことを伝えると覇気のない声で「わかりました」と返事が返ってきた。「お大事に」などの労わりの言葉はなかった。私の知らないところでよほど咲の問題で振り回されたんだろうか。でもそうだったのだとしても申し訳ないとはあまり思えなかった。咲の病気は学校の部活が原因だと私は思っていたので、「もともとの原因は学校じゃないか」と反発する気持ちにしかならなかった。
家に着いて咲の部屋で着替えを見繕っているときに、タンスの引き出しの奥に紐が隠してあるのを見つけた。咲が持ち歩いている「お守り」にしている紐とは別のものだった。
「入院してよかった……」私は思った。
あの子は機会をずっと伺っていたのだろうか。