読み間違えたんじゃないかと掲示板をそのままずっと見続けていると、咲が「他の人も待ってるから場所を空けようよ」と言った。私は我に返って掲示板の横の人が少ない場所に二人で移動した。すぐ近くに目を真っ赤にして泣いている子がいたので、さらに場所を探して掲示板から遠くに移動した。
そこで私たちは初めて「やったー!!!!!」と言い合って大喜びした。夢じゃない、大掛かりなドッキリでもない。本当に合格したんだ!と喜びをかみしめた。
頭の片隅に(でも落ちこぼれるだろうな)という気持ちはあったけれど、志望校に合格したことで、病気も良くなるんじゃないか、もしかしたらすぐに回復するんじゃないかと期待した。
(そんなに甘くなかったです)
掲示板の奥に合格者が書類を受け取る場所が用意されていた。そこに向かう校内の道の両脇に部活の勧誘のために先輩たちが並んでた。通り抜けるときに先輩方は口々に「おめでとうございます」と言いながら様々な部活の勧誘のチラシを渡してきた。「ありがとうございます」と、まるで自分が合格したかのように私は咲と一緒にチラシを受け取りながら進んだ。横にいる咲の笑顔が嬉しかった。
合格と筆字で大きく書いてある封筒に入った書類を受け取って咲が戻ってきた。
「受験番号と名前を確認されたし、名簿もチェックしてた」
それを聞くまでまだ合格は学校のミスじゃないのかと疑っていたが、本当に合格したのだと実感した。神仏のご加護としか思えなかった。
夫、親戚と桜井先生に電話で連絡をして、咲はますます笑顔になった。
このまま一緒に家に帰って家族で祝いたかった。家族で喜びを分かち合って咲を祝福したかったし、豪華な海鮮丼を食べさせたかった。
でも病院に戻ることになっていた。不合格のフォローのためには良かったが、合格したとわかったとたん、私は咲に自宅に戻ってほしくなった。
仕方ない、この子は入院中だ。私はどこかに寄り道したいところはあるか?と聞いてみると「もう疲れた」と返事してきた。
高校受験の合格発表はうつ病の中学生には相当強い刺激になっただろう。私は「病院に戻ろう」と声をかけてみると素直に「うん」と言った。
病院に連れて行くと、ちょうど相葉さんがいて病棟の鍵を開けてくれた。また窓のない細長い部屋に通されて簡単な面談をやるようだった。そこで外出や外泊用の書類入りのプラスチックのケースを相葉さんに返した。
相葉さんは合格発表の結果を聞いてこなかった。気を使っているのが分かった。咲が封筒を見せて「ごうかくしました!」と笑顔でいうと相葉さんはとても喜んでくれた。本当に咲の心配をしているのが伝わってきた。
その場で合格封筒の中身を見てみると、合格者の皆さんへという事務連絡や合格者登校日の連絡や高校への提出書類と他に分厚い問題集が入っていた。春休みの課題だった。
本人がだんだんと疲れた様子になってきていたので私は提出書類は書いておくからと言って面談を切り上げようとした。相葉さんも引き止めるそぶりはなかった。咲は問題集を受け取らずに封筒ごと私に渡してきた。課題を始める気はないらしい。それでいい。休んでほしい。
2枚目のドアの奥に咲は戻っていき、相葉さんに挨拶して私は病院を後にした。
次のイベントは卒業式だった。