中3 94 卒業式第二部3

中学3年
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先生は咲の荷物の箱を渡した後に「中学から高校に連絡する書類があるんです。病気のことを知らせた方がいいですか?知らせないでおくこともできます」と聞いてきた。

そんな書類があったとは知らなかったが、「入院や自殺未遂のことも含めてありのままを知らせてください。」とすぐに私は答えた。全部知ってもらっていたほうがいい。最初から要観察生徒になってしまっても仕方がない。

あの子が高校に行っている間のことは高校の先生に頼るしかない。具合が悪いときや様子がおかしいときに先生が気が付いてくれると本当に助かる。それに咲が成績が悪くても学校を休んでも、事情を知っていてくれることで叱られずに済むだろう。あの子を見守る目も高校の先生が加わることで増える。

本当は普通の生徒でいてほしかった。でもできないんだろうな。先生に答えながらそう思った。他にも2,3やり取りをしたはずだけれど内容は忘れてしまった。

その後小部屋を出て、最後に咲の靴箱を確認して、そこにあった名前入りの内履きを回収した。それから一緒についてきていた桜井先生に「ありがとうございました」と、何がありがたいのか自分でもわからないまま挨拶した。桜井先生は荷物を車まで運ぶのを手伝ってくれた。

そこでもう一度「ありがとうございました」と言った。先生も「頑張ってとかなんとか言っていたように思う。(忘れた)」
先生と顔を合わせたのはこれが最後になった。サイズが合っていない礼服姿がなんだか可笑しかった。礼服の準備を忘れていて、どこかから借りてきたんだろうか。「先生」であっても当たり前に一人の人間なんだということだなと私は思った。完璧じゃないんだ。

家に帰ると私はすぐに着替えた。パールの二連ネックレスがなかなか外れなかった。留め金がどうなっているか鏡に写してみようとして、鏡を見ると私は泣いていた。留め金は鏡を見ながら外そうとしても外れない。涙が流れて頬を伝う。まだ留め金は外れない。

あの子は苦しい思いをしても逃げずに部活を頑張ってきたのに、何も得られたことはなかった。それどころかうつ病を発症してしまった。

本当はあの子に他の子たちと同じように卒業式に出て、みんなと写真を撮り合ったり卒業アルバムのページに寄せ書きを書き合ったりしてほしかった。持ち帰った卒業アルバムの寄せ書きのページは白紙のままだ。

「いろいろ楽しかったね。苦しいこともたくさんあったけれど、みんなと一緒の中学校で良かった。また会おうね」

そんな挨拶を交わし合って別れを惜しみあって、たいして仲が良くなかった子たちともその場のノリで抱き合ったりふざけあったりして、ちょっと感傷にひたってほしかった。

元気だったら卒業式の日の夜には仲が良かった子たちとカラオケに集まったり一緒にご飯を食べたりしただろう。そこで誰が誰に告ったとか好きだったとかきゃーきゃーと話しあって笑い合って、気の合わない子のことを「あの子ほんとイヤだったわ」って悪口を言い合ってスッキリと憂さ晴らしをして卒業式イベントを楽しんでほしかった。他の子たちと同じように節目の区切りをつけて中学生のページを終わらせてほしかった。

それから、新しく始まる高校生活に夢や希望を抱きながら普通の春休みを過ごしてほしかった。高校から出された大量の課題を片付けながら、志望校に受かった喜びをかみしめてほしかった。

普通に。ごく普通に。それだけで良かったのに。

何も叶わない。一つも。何一つ。