中3 32 医師からの電話

中学3年
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翌日の午前中に大野医師が私に電話をかけてきた。

「転院(ほぼ入院しなければならない前提)の話を進めたいのですが」

大野医師は私の返答を待つために一度言葉を区切った。

「昨日夫と話しあったのですが、入院はさせないでいこうと思います。」私が返答すると、息を飲むような気配が電話の向こう側から伝わってきた。

「入院しないで今後どうするつもりですか?」

「このまま大野先生にお世話になろうと思います。」

「なぜ入院をさせないのですか?」

「入院したら高校受験ができないというのが大きいです」一番大きいのはこれだった。高校受験ができなかったら一生本人に影響する。

「いいえ!入院していても高校受験はできます。そういう時は外出許可を出しますよ」

「そうなんですか」私は驚いた。精神科に一度入院したら何か月もそのまま退院できないと思っていた。

大野医師は畳みかけるように言った。

「今は24時間誰かがついていなければいつどうなるかわからないような状態です。入院させて治療したほうがいいです」

「そうなんですか。私は高校受験ができなかったらもっと本人が具合が悪くなるかと思っていました。それで入院には反対でした。」

「誰だって一度で全部正しく判断することはできません、もう一度ご主人と話をして下さい。明日また同じ時間に電話します」

会話はそこで終わり、大野医師は電話を切った。

24時間誰かが傍についていなければならない状態、入院が必要。医師があれだけ強く言うのだから本当に危ないんだと改めて危機感が出てきた。入院中でも高校受験をできるなら入院した方がいい。

頭では状況はわかった。でも気持ちが追い付かなかった。自分の子供が自殺未遂しただけでなく精神科に入院することになろうとは。真面目に(時に不真面目に)生きてきてなんでこんな目に遭うんだろう。何も悪いことをしていないのに何の罰ゲームなんだろう。どうせなら私をうつ病にしてほしかった。私が入院するほうがよかった。私の子供たちには幸せでいてほしかった。咲には普通の中学生でいてほしかった。あの子が気にする「みんなと同じ」普通の中学生が良かったのだ。代われるなら代わりたい。本当にそう思った。