その日の夜大野医師に言われたことを夫に伝えてまた話し合い「受験ができるのなら……」と渋々入院に同意することにした。でも咲が知らないまま入院の話を進めることはどうしてもできなかった。その面も私も夫も同意見だった。自分が逆の立場だったら両親を恨みそうだ。恨まれたとしても仕方ないけれどその感情は本人に悪く作用しそうだ。どうしても避けたかった。
翌日かかってきた大野医師の電話に入院に同意する旨を伝えて、転院先を探してもらうことになった。そして来週受診に行った時に「咲に入院になるかもしれないことを伝えたい」と言ってみようと思った。
精神科受診に親子で行った場合は二人で一緒に診察室に入ることもできるし、一人ずつ別々に診察室に入って医師と個別に話をすることもできる。お互い聞かれたくないことがある場合はそうするといいと思う。
このやり方は保健師の松本さんに教えてもらった。このおかげで「入院の可能性があるということを本人に隠さないで伝えたい」と大野医師だけに話すことができた。本人も親には言いたくないけれど医師に相談したいことはいろいろあったと思う。本人からすれば親は面倒でウザイと感じることがあったはずだ。友達やいっそ他人の方が自分の気持ちを言いやすいだろう。中学生にとっては親なんてそれほど大事じゃないし、相談相手には適さないと思う。
だから別々に医師と話すことができるのはとてもありがたかった。
咲はこの頃に学校でスクールカウンセラーや保健の先生や担任の桜井先生と何度も話をしていたようだった。他の生徒たちが授業中に別室に呼ばれて話をしていたらしい。その話は私に隠していたのでずっと知らなかったが後から松本さんに教えてもらった。先生たちも私の知らないところで咲のために動いていてくれたのだと思う。
本人はその計らいに対して「死にたいのにじゃましないでほしい」という気持ちが強かったと後から聞いた。視野狭窄で正常な判断をできていなかったのだと思う。
こういう状態になってしまったら誰が何を説得しても全く本人に届かない。朝日を浴びるとかリズム体操をするとか十分に休息をとるとかを悠長にやっているよりは、とにかく医者に連れて行くのが最良だと思う。もう自力でなんとかできる状態ではなくなっている。
そして自分や家族だけでは判断しないで信頼できる他の人にも相談したほうがいい。他人の方が冷静にズームアウトした視点から見て意見を言ってくれるからだ。(個人的な意見です)