中3 41 転院が決まる2

中学3年
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電話を切って私は仕事に戻った。全く仕事に集中できなかった。大野医師や桜井先生のことが頭に浮かんだ。あの人たちも自分の仕事に対して責任を持って取り組んでいる。

咲に対しては通常以上の重たい責務を持つことになってしまって、きっと私の想像以上に大変だっただろう。受け持っている患者も生徒も咲の他にたくさんいる。咲が入院したことで受け持つ責任が一人分減れば、その隙間は他の患者や生徒ですぐに埋まってしまう。きっと余裕を持って仕事できることはあまり無いのではないだろうか。特に学校の先生はブラックな環境で働いていると聞く。そんな中で大野医師も桜井先生も咲のために奔走してくれたのだ(たぶんですが)ありがたかった。

咲は朝起きるために体を動かすのも辛い、体が重いと言うようになっていた。体調だけを考えたら学校には行かせずに家で休ませていたほうがいいのかもしれなかった。しかし本人は周囲にサボりだと思われるのをひどく嫌がり意地でも学校に行っていた。その方が私にも都合がよかった。家に一人でいたらふっと希死念慮が高まって自殺を実行してしまうかもしれないからだ。

体のことや心のことを考えたらもう入院させた方がいいのだろう。でも私は子供を精神科に入院させることに大きな抵抗があった。そのことも本人には話せなかった。本人がどう受け取るかがわからなかった。

ネット情報も本も咲の発症後にたくさん読んでいたのでうつ病は簡単に治る病気ではないのが良く分かっていた。

そんな中で高校受験は刻々と迫ってくる。うちの子は勉強するどころか学校に行くのがやっとの状態になってしまっている。しかも来週には入院が決まるだろう。受験はますます難しくなってくる。

咲が志望している公立高校は地方の中では偏差値が高かった。うつ病でこれから入院する予定の子が、受験勉強を普通にしている他の受験生たちに勝てるとは思えなかった。このままでは受験は失敗するだろう。あの子は心にダメージを負い、あのクソ部活のメンバーが何人も入学する見込みの私立高校に通うことになる。病気は悪化するだろう。今でさえ大変そうなのにどんな状態になってしまうのだろうか。

でももし志望の高校に合格したらプライドの高い咲には大きな喜びになる。その高校に通うことできっと自信を取り戻していくことになる。しかし現状のままうつ病の症状があれば学校の勉強について行けなくなるだろう。(頭の働きが非常に悪くなります)咲の志望校に在学中の実樹も宿題の多さに辟易している。無事に志望校に合格した場合もきっと病気は一時的には合格したことで良くなるかもしれないが長い目で見たら悪化していくだろう。落ちこぼれるからだ。

志望校のランクを落とすのが一番現実的に思えた。偏差値が高くない高校なら落ちこぼれないし、クソ部活のメンバーと同じ高校に行かなくて済む。

でも本人はそれを嫌がった。志望校は変えたくない、勉強を頑張ると言った。実際には学校以外は寝たきりで過ごすだけになってしまったというのに。