中3 47 帰り道

中学3年
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私はまだ本物のEMDR治療を受けさせたかった。でもこれから転院するA病院ではEMDR治療はできなさそうだった。ネットで公開されているEMDR治療者リストにA病院の関係者は誰も記載されていなかった。どうしてもEMDR治療を受けさせようと思ったら咲は嫌がるとしてもN医院に通院するしかない。しかしN医院には入院設備がない。

A病院で入院しながらN医院でEMDR治療を受けることはできるのだろうか。医療機関同士の横のつながりなんて全然わからなかった。それでもA病院を受診した時に聞いた方がいいだろうか。

思考はぐるぐる堂々巡りした。

入院がほぼ確定しているのだから素直にA病院に転院し、EMDR治療はひとまず棚上げした方がいい、最終的に私はそう結論を出した。もがくだけもがいて振り出しに戻った。高校受験の問題も何も変わらず存在していた。

負け惜しみ的に私は思った。

何かをしなくて後悔するよりも、して後悔した方がいい。なぜなら結果が経験となり今後に生かせるから。(そんな行動に咲は圧迫を感じていた)

帰ってから夫に詳細を話した。夫は「EMDRがダメなら何か即効性のある他の治療があるんじゃないか」という私の妄想を全然当てにしていなかった。多分夫も咲も今日のことは最初からどうなるかをわかっていた。私だけが一人で空回りしていた。自分の頭の悪さに愛想が尽きそうだった。

翌日の日曜日、咲は昨日の疲れでベッドから起きられなくなっていた。体力の無さは深刻だった。まるですぐに充電の切れるスマホみたいだった。それなのに昨日は余計な体力を使わせてしまった。自分が嫌になった。

私は一人で入院用品を買いに出かけた。近くのスーパーだと咲の同級生やその親に出くわしそうだったので遠いところを選んだ。

A病院のホームページをみると入院時に用意するものは普通に入院する時と変わらなかった。割れないコップ、ハブラシ、洗面器、タオル、着替え、パジャマ、室内履き、…。ほとんどは新しく買いそろえた。入院するのが冬なので体温調節が簡単にできるように脱ぎ着がしやすい前開きのパーカーも買った。

他の患者と話す機会があるかどうかはわからなかったけれど、新しいものを使っている方がいつ誰に見られても気おくれしないですむだろう。咲はそういうところを気にする子供だった。それとも今は「自分のためにこんなに準備させてごめんなさい」と思ってしまう精神状態なんだろうか。

本人が好きそうな柄のものを一通り買ってすぐに家に戻った。咲は起き上がっていて、入院時に持っていくものを自分で準備し始めたところだった。まだ体を動かすことが辛そうだった。荷造り中の荷物の中にはiPod touchや英語リスニング用のCDとCDプレーヤーやヘッドフォンもあった。

第一志望の高校を受験するつもりに変わりないのだろうか。こんなに体調が悪くなって頭も働かなくなっているのに。家ではほとんど寝ていてたまに教科書を広げていても朝から夜まで同じページで1ページも進まないのに。