アッと言う間に時間が流れて、病院に戻る時間が近づいてきた。
病院へ向かう車の中で私は買っておいた漫画を渡した。その漫画は「ニーチェ先生」というギャグ漫画で、4コマ漫画だから気楽に読めるし頭も使わないと思って選んだものだった。咲は漫画を見てあまり気に入らなかったらしく「ありがとう」と嬉しくなさそうな声で言った。感情は出すけれど、家族にもいつも気を遣うのにめずらしかった。でもそういう風にはっきり感情を出してくれる方がいい。自分の心を大切にしてほしい。いやならいやと言えた方がいいんだ。私はそう思った。ニーチェ先生は私が読むことにした。
「『おやすみプンプン』が読みたいなぁ」咲は自分が途中の巻まで買って読んでいた漫画の名前を言った。その漫画の続きが読みたいと言う。読ませたい内容ではなかったが読みたいのなら……と私は続きの巻を買うと約束した。そういう暗い話の漫画に気持ちが向いているのは、精神がまだ弱っているせいなのかなと思った。
おやすみプンプンは後日差し入れたけれど、検閲で医師に「暗すぎて許可できません」と言われて本人には渡せなかった。ティーンエイジャーは読まないほうがいいかもしれない。暗いだけでなく読んだ人が心にダメージを負いそうな話で、そういう狙いで描かれた漫画かもしれないと思う。(何のために??)
子供にiPodを与えていてネット閲覧に制限をかけていなかった。それに漫画は何でも禁止しなかった。
ちゃんと善悪の判断ができるから危ないサイトなんてうちの子は見ないし、そんなにバカじゃないから出会い系や詐欺サイトにはひっかからない。友達との付き合いや部活の連絡網でLINEが必要だからiPodも必要。漫画も親が制限して読みたい漫画を読ませないのはかわいそうだ。
当時本当にそう思っていた。
(当時からスマホを持っている同級生の方が多くてiPodやタブレット端末だけを持っている子の方が少なかったようです。)
「うちの子は大丈夫」と根拠なく楽観的になり、ネットや漫画が中学生に及ぼす大きな影響力を真剣に考えなかった結果、
部活によるストレスからうつ病を発症したあの子は、自殺についてを検索し続けて、自分にとってベストな死に方をネットから導き出した。漫画から心が歪むような刺激をうけたことも引き金になったのかもしれない。
そして自殺を行動に移した。未遂でおわったのはただただ運が良かったからとしか言いようがない。
自分のバカさ加減にはあきれるばかりだ。
中学生はまだ子供だ。ほんの子供だ。まだ親が見守ってやることが必要だと思う。私はそれを怠った。子供を信じるという建前で放任した。
その結果が子供のうつ病発症だった。