中3 35 再診の日

中学3年
スポンサーリンク

再診の日が来た。私にとっては3度目の診察室だった。咲はそのことを知らないので「2度目だね、今度は途中で追い出されないといいね」とブツブツ言っていた。でも病院には嫌がらずに素直についてきた。死にたい気持ちが強い中にも治したい気持ちもあるのかもしれなかった。

最初に親子で診察室に入って問診だった。体調や気分について聞かれた。その後私が別々に話を聞いてほしいとお願いして最初に咲が診察室に残り、私は外の廊下に出た。しばらくして呼ばれて私が診察室に入り入れ違いに咲が出て行った。

大野医師が冷たい声で話を切り出した。

「入院の話ですが、今まずいことになっています。この病院ですでにカルテを作ってしまったために他の病院に転院を打診しても『そちらで対処してほしい』と言われて断られています。転院先が見つかりません。こちらでは本来なら重症患者は受け入れていません。なぜ最初に予約したときにこんな状態だと言わなかったのですか。なぜ黙っていたのですか」

たしかに予約を取った時に咲が自殺未遂をしていたことは言えていなかった。予約の電話をしたときに私は「子供が死にたいと」から先を言いたくても声がつまってしまって出せなかった。受付の人は死にたい気持ちを持った患者だと思って予約を受けたのだろう。

カルテを作ってしまったために転院ができないということなのだろうか。カルテを作るということが患者を引き受ける意思表示みたいなことになるのだろうか。そんなに重要なことなのだろうか。だったらセカンドオピニオンはどうなるんだろう。

重症患者を受け入れないのなら最初から「軽症な患者のみ診察したします」とアナウンスをしていてほしかった。それに病院側が受付する時に「どのくらい重症なのか」をよく聞き取ってくれていればこういう事態にならなかったのではないだろうか。私の知識も乏しかったが病院も悪いところあったのではないだろうか。不満を感じた。

私の顔つきを見たのだろうか、医師は幾分声の調子を和らげて言った。

「今は咲さんくらいの年齢の子を診察する病院を探していますがなかなか見つかりません。大人が入院できる精神病院なら紹介できるかもしれないです。そうしますか?」

私は同じ年頃の子たちがいる方が本人が安心する方がいいので大人用でない病院を探してほしいとお願いした。医師の表情が少し和らいだように見えたので、チャンスとばかり自分の妹が自殺していることをいうと、医師は顔をしかめ、また冷たい声で「そういうことはもっと早く…」と語尾まで言わずにカルテに何か書きとった。