中3 52 本当に入院しないの?

中学3年
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渡されたチラシを読みながら私はロビーで子供が戻ってくるのを待った。ロビーは空いていて普通の病院と同じような作りだったが狭いし雰囲気が違った。

入口に警備員さんがいるのもあるかもしれないけれど、総合病院や医院の待合室はもっとざわざわと話し声や人が歩く音がするし、少しせかせかするような雰囲気があると思う。人も多くて混んでいる。前の病院もEMDRのN医院もそうだった。

でもここは誰も話をしていなかったし、動きもなかった。音はロビーのテレビの音が一番大きかった。大人の精神科もあってそれなりに通院している人も多いはずだけれど、いる人の数が少なかった。ゆったりしていて活気のない、エネルギーの少ない世界に来たみたいだった。

咲は入院しないということをどう思ったんだろう。それが気になった。あまり刺激したくなかった、とにかく負担を取り除いてあげたかった。本人は理屈で納得しておそらく入院だということを受け入れていたけれど、気持ちの面ではどうだったんだろう。でも私が問い詰めるとまた負担を増やしてしまう。

自分から話そうとしないことは聞かない方が本人には負担にならないと思う。しかし言いたくても言いかねているのならその気持ちを掬い取ってあげたい。その境界性がわからなかった。本人の顔を見ながら話をして判断できるだろうか。

帰ったら桜井先生にも連絡しなければいけない。もうじき冬休みだ。入院しないのなら咲は平日は家で一人で過ごすことになる。正直言って状況だけで考えれば入院した方が良かった。冬休みに自宅で自殺される心配がないのだから。

もし今入院してしまったら授業を受けられないことを考えても、出席日数で考えても志望高校の受験は失敗するだろう。二宮医師は受験のことを考えてすぐに入院という措置をとらなったのかもしれない。危険度だけでなく患者の今後の生活を考えて入院の判断をするものなんだろうか。でも入院しないで今の生活を続けていても、あんな体調と精神状態で受験勉強ができると思えない。

入院しなくなったと聞いたら大野医師は何と思うのだろうか。

悶々と考えているうちに時間が過ぎていて咲が看護師さんと一緒にロビーに入ってきた。その表情を見ても本人の考えは全くわからなかった。