中3 68 週末までの別れ

中学3年
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入院となったらもちろん学校には行けない。学校を休むのにこれ以上ない正当な理由だと本人は考えているだろう。前回の診察の後にもそんなことを言っていた。

ともかくこれで「どうしても学校にいかなきゃ」という焦りはなくなるだろう。内申書に書かれる欠席日数は一月分までだった。、もう二月に入った。だからいくら休んでも内申書は大丈夫だ。本人はそれもわかっていた。

受験勉強のことを考えるなら学校に行った方がいいだろうけれど、勉強できるような体調ではなかった。今ベッドの台に置いてある教科書も、きっと広げただけで読まないで終わる。

「学校に行っていても気力と体力を削られていくだけだ、これで良かったんだ。」悲しい気持ちが台風みたいに心の中を通過した後、私の方もそんなあきらめの気持ちになっていた。

会話が途切れた。もう聞きたいことや合わせておきたいことを今は思いつかなかった。

咲は今は自分の殻に閉じこもってしまい、何も受け付けないように見えた。なぜなのか、それをどう思っているのかはわからなかった。こういうときに何を聞いても返事は曖昧になる。話したくないのかもしれない。だから聞かなかった。

行き場のなくなった視線を下に落とすと病院名の入ったスリッパがベッドの脇にあるのを見つけた。内履きは用意した荷物にあったかな、ふっとそんなことを考えた。

そろそろ帰らなくては遅くなってしまう。最後に「洗濯物は週末に取りにくるからまとめておいてね」と声をかけた。

「わかった。ありがとう」

やはりあまり話さない。病室に入ってからの会話も、考えてみれば私が聞きたいことを聞いて、咲はそれに答えているだけだった。

もう一人になりたいのだろう。次に会うのは週末だ。私は病室の外に出た。咲はベッドで半身を起こした姿勢のままで私を見送った。病室の外まで見送っては来なかった。名残惜しかったのは私だけのようだった。

病室から出てロビーのような場所を通ると、同じ3人がさっきと全く変わらない姿勢でテレビの方を向いてベンチに腰かけていた。私の足音を聞いてもさっきと同じように誰も振り返らなかった。

そのままナースステーションに行って、咲の担当の看護師さんに「終わりました。」声をかけると、看護師さんは咲の通学カバンを持ってナーステーションから出てきた。

持ち込める教科書は5冊までとノート類だったので、持ち込めなかった分の教科書が入っている、そう看護師さんは言った。「教科書は入れ替えていいのですけれど一度に持ち込みできるのは5冊までです」そう言いながら通学カバンを私に返してきた。

ナースステーションで教科書を預かって、咲が言ったら教科書を入れ替えてくれないかと言ってみると、すんなりOKが出た。

「自己主張することが大事らしいな」私はそう思った。

言われたことを聞いてその通りにしていたら、今日病室で話したことは一週間10分の面会に含まれてしまったので、週末に面会に行っても会えなかっただろうし、教科書も私が持ち帰らなければいけなかった。教科書を入れ替えるなら咲から電話がきたときに何の教科の教科書を持っていくのかの相談もしなくてはいけなかった。たった10分の電話の時間を教科書で使いたくなかった。