そんな様子を見たときは私は咲のことが大切だ、かわいい、価値がある、すごい子だと繰り返し伝えてきた。夫もそうだったと思う。でもあの子の心には届いていないようだった。
中学生にとっては家族のことはそんなに重要ではないのかもしれない。ずっと小さいころから一緒に過ごしてきたのだから当人には普通の日常のことで、わざわざ改めて考えないのかもしれない。空気みたいなものなのだろうか。学校の中や友達同士の人間関係の方がずっと大きな関心事だということはよくわかった。だから私たちが何を言っても本人の心を動かすことはできなかったのだろうか。
私たちより学校や友達のことが大切だったのだとしても、今もちゃんと死なないでいてくれている。生きていればちゃんと話ができる。本人の顔が見れる。生きているのなら……それだけで十分だった。
おそらくこの時点で視野狭窄(うつ病の症状の一つ)に陥っていた。死ぬことが最良の解決策に思えてそのことしか考えられられなくなっていたのだと思う。そのような心理状態の時に何を言っても伝わらない。死にたいという願いで頭がいっぱいなのだから。
行動も普通ではなくなってきていた。
家族で食事をするときに実樹が話題の中心になるとがくっとうなだれてしまい頭をなかなか上げなくなった。
時々私が何をしていても急にもたれかかってくるようになった。体重をぐっとかけてくるので支えられずに一緒に何度も転んだ。
夜に「ドライブに連れて行ってほしい」というようになった。そういうときは街中や暗い道を車で走った。街灯が光っている様子を見て喜んでいるときもあったし、後部座席でうなだれていて、外の景色もあまり見ないときもあった。私はドライブに行きたいと言われたら連れて行った。できることはしてやりたかった。
死んだら夜の街をふわふわ飛び回りたいとこのころ何度も言っていた。
こんなに様子が変わってしまうと早く医者に連れて行きたかった。気の迷いで自殺しようとしたのではないのだとこの頃には身に染みてわかってきた。そのくらい様子がおかしくなってしまった。かわいそうだった