中3 37 医師と話す 続き

中学3年
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「私は通常初診では薬は出しません。患者さんとの信頼関係を大切にしています。患者さんがいろいろなことを話してくれるようになって、環境や性格をわかってきてから薬を出しています。咲さんは症状が重かったので特別な例外としてすぐに薬を出しました。」

後から思えば大野医師は自分の見立てを付け加えたことで、入院させるべきだという意見の補強をして、医療体制がないのに入院が必要なほどの重症な患者を受け入れることになってしまったことに対して私への不満を言ったのだと思う。謝らない私に苛立ちがあったのかもしれない。

けれど私はその時は「信頼関係重視にしては初診の時の対応がめちゃくちゃだったな」と全然関係ないことを心の中で毒づいていた。医師の悪いところを探すような心情になりかけていた。

でもそういえば初診の時は画面だけを見ていて咲や私の顔を全く見ていなかったのに、今日は椅子を私の正面に向けて腰かけている。目も合わせてくる。先生や保健師さんとの打ち合わせで何か変わったのかもしれない、と医師が前回の悪かったところを一つ直していると思いなおした。

医師の話はそこで終わりだった。大野医師は咲さんと3人で話したいと言ったので私は咲を呼びに廊下に出た。咲は大人しく待っていた。内心逃げ出してしまったのではないかと思っていたのでほっとした。

二人で一緒に診察室に戻るとさっきと打って変わって柔らかい表情で医師が言った。

「前回の検査の結果では体に異常はなかったの。問診もしたけどやっぱりうつ病だね。咲ちゃん、私はゆっくりあせらないで治していけばいいと思うよ」

声の調子まで変えておっとり優しい感じにしてある。これが患者に対しての大野医師の本来の接し方なんだろう。私に対しても患者に対してと同じ気持ちで接してくれれば多少心が休まっただろうな。とまた私は心のなかで毒づいた。患者本人はもちろん一番大変だけれど支える家族もついでにでいいから気配りしてほしい、私も疲れてしまったなと思った。自分のことに意識が向いたのは久しぶりに感じた。

咲は医師に「わかりました」と幾分固くかしこまった調子で答えた。私も会釈だけした。黙っていないと何か失礼なことを言いそうだった。

次回の予約をして診察は終わりだった。その予約も転院が決まったら要らなくなる。

私は入院はさせたくなかった。咲に入院の話を出したらどんな反応をするのかも怖かった。普通であることに拘る子なのに精神病院に入院なんて本人に耐えられるんだろうか。それともほっとするのだろうか。この先どうなっていくのかがわからなくて怖かった。